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『ワイルドパンチ』(1969) [大人の映画]

恐怖と高揚感を呼ぶ殺戮シーンの美学
賞金稼ぎに追われながら、メキシコヘ流れていく無法者の一団を描いたサム・ヘキンバー監督の『ワイルドパンチ』。
今でこそウェスタンの古典と称されるが、公開当初は評価が真っ二つに分かれた。
とりわけ問題だったのは残酷な映像。
当時の観客は文字どおり度肝を抜かれた。
人間の死の瞬間がこれほど執拗に、しかも大人のおもちゃ同様に官能的にスクリーン上で表現されたことはなかった。
脚本家のデービッド・ウェデルが書いたヘキンバーの伝記『動いたら、撃ち殺せ!』によると、試写会では映像に耐えられなくなった観客が30人ほど逃げ出し、何人かは路上で吐いたという。
ペキンバーは殺し合いのシーンに、撮影速度を変えた6台のカメラを使用。
こうしてスローモーションを駆使したリアルで幻想的な世界が生まれた。
ペキンバーが突き付ける残酷シーンを目にすると、観客は震えと同時にある種の高揚感を抑え切れなくなる。
人の心の奥底には血への渇望があると、ペキンバーは信じていた。
複雑に錯綜した彼のバイオレンス観を土台に描き出された死。
その衝撃的な美しさを、私たちは認めないわけにはいかない。
ウェスタン映画から善悪の二元論を払拭したのもこの作品だ。
ウィリアム・ホールデンをボスとする流れ者の一団は強盗を企てるが、ロバート・ライアン率いる賞金稼ぎたちの待ち伏せに遭う。
何の関係もない人々まで巻き込んだ壮絶な銃撃戦には、もはや正義も悪もない。
登場するのは悪漢と、多少ましな悪漢だけだ。
しかし冷笑的な姿勢に隠された「男のロマン」は、アウトローを忘れ難い存在に変える。
この作品の熱烈な支持者がほとんど男であることや、マーティン・スコセッシやウォルター・ヒルなどヘキンバーに心酔する監督が例外なく「男の映画」の作り手なのもうなずける。
もっとも、この作品には欠点もある。
メキシコの小さな村で男たちが過ごす場面は感傷的過ぎるし、笑い声も芝居がかっている。
しかし、この映画を簡単に忘れられる人などいるだろうか。
『ワイルドパンチ』には別れの調べがある。
その悲しい響きは心に染み入り、消えようとしない。
死を予感しながら破滅へ突き進む男たちの年輪を刻んだ顔。
彼らは英雄でも悪漢でもない。
第一次大戦直前という1つの時代の終幕に居合わせた、ただの男たちだ。
彼らに安息をもたらすのは死だけだった。
【1995.3.22】
監督/サム・ペキンパ叫
主演/ウィリアム・ホールテン
2012-01-11 17:56
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